会計基準30個を一言ずつ解説してみた/会計の全体像を一覧しよう
こんにちは、公認会計士・税理士の三上です。
普段は漠然と、
『会計基準!』
などと発言しているのですが、実際にどのような会計基準があってどんな内容なのかということを知っている方というのは、かなり少ないと思います。
そこで、今回は主たる会計基準30個について、一言ずつ簡潔に紹介していきたいと思います。
- 会計基準 ひとこと解説はじめるよ!
- 外貨建取引等会計処理基準
- 連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準
- 研究開発費等に係る会計基準
- 税効果会計に係る会計基準
- 固定資産の減損に係る会計基準
- 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
- 1株当たり当期純利益に関する会計基準
- 役員賞与に関する会計基準
- 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
- 株主資本等変動計算書に関する会計基準
- 事業分離等に関する会計基準
- ストック・オプション等に関する会計基準
- 棚卸資産の評価に関する会計基準
- 金融商品に関する会計基準
- 関連当事者の開示に関する会計基準
- 四半期財務諸表に関する会計基準
- 収益認識に関する会計基準
- リース取引に関する会計基準
- 工事契約に関する会計基準
- 持分法に関する会計基準
- セグメント情報等の開示に関する会計基準
- 資産除去債務に関する会計基準
- 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準
- 企業結合に関する会計基準
- 連結財務諸表に関する会計基準
- 会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
- 包括利益の表示に関する会計基準
- 退職給付に関する会計基準
- 会計基準という位置づけとはちょっと違うけど大切な文書
- まとめ
会計基準 ひとこと解説はじめるよ!
外貨建取引等会計処理基準
【難易度】中
【経営への影響】外国通貨での取引が多い企業は損益への影響大
『ドルやユーロなどの外貨建ての取引(ex.商品を100ドルで売った/期末に100ドルの預金がある/10万ドルを出資して海外に子会社を作ったetc)を、日本の決算書を作るにあたって、いつ時点の(ex.取引を行った時のレート/決算日のレートetc)どのようなレート(ex.決算日など特定の日のレート/期中の平均レートetc)で円に換算するのかが決められてます。』
連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準
【難易度】中
【経営への影響】小
『キャッシュ・フロー(現金や普通預金などの動き)を表現する決算書のひとつである『キャッシュ・フロー計算書』の作り方や表現のルールが定められてます。キャッシュ・フローは、営業キャッシュ・フロー、投資キャッシュ・フロー、財務キャッシュ・フローの3つに区分されます。また、営業キャッシュ・フローの表現方法として間接法と直接法という2つの方法があります。』
研究開発費等に係る会計基準
【難易度】低
【経営への影響】多額の研究開発費を投じている企業は影響大
『『研究開発費』という費用を定義して、その『研究開発費』は“資産”ではなく“費用”として処理するんだよ、ってことが定められてるよ。』
税効果会計に係る会計基準
【難易度】高
【経営への影響】大
『“企業会計における利益”と“税務上の利益”は、計上されるタイミングにズレがあります。そのズレを調整して、利益に対する税金費用の負担割合がおおよそ毎期一定となるようにする(最近は30%台前半程度=『実効税率』)ための会計基準です。ちなみに、その結果計上される『繰延税金資産』という資産は、将来的に利益が出ることを前提に計上されるものなので、業績が悪くなると資産を取り崩して費用として処理することになるので要注意が必要です!』
固定資産の減損に係る会計基準
【難易度】中
【経営への影響】大
『固定資産とは「土地」や「建物」や「機械設備」など。これらは、将来的に“利用”すること、場合によっては“売却”することで投資金額以上のお金を回収することを意図している。これは逆にいうと、回収できる可能性が少なくなったら、“資産”として計上されている固定資産を減額して、その分を費用として計上(=『減損損失』)する必要があるということだよ。』
自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】小
『会社が発行した株式を自ら買い戻したとき、それを「自己株式」と呼びます。それを取得したとき、再び外部へ売却したとき、その株式自体を法的に消滅させたときの会計処理方法が規定されています。また、“会社への出資された金額”と“事業によって獲得した利益”との区分についても規定されてます。』
1株当たり当期純利益に関する会計基準
【難易度】低
【経営への影響】小
『“当期純利益÷発行株式数”で計算される『1株当たり当期純利益』や、ストックオプションが将来的に行使されることにより発行株式数が増加した場合の影響などを加味した『潜在株式調整後1株当たり当期純利益』の算定方法が規定されているよ。』
役員賞与に関する会計基準
【難易度】低
【経営への影響】小
『取締役や監査役に対する“賞与”は『費用』として処理しなければいけないことを定めています。ちなみに、現在の会社法が施行(2006年5月~)される以前は、会社が獲得した利益の処分項目として位置づけられていて『費用』ではありませんでした。』
貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】小
『以前は“資産と負債の差額が株主資本”として位置づけられていましたが、新基準(2006年5月~)では“資産と負債の差額は純資産”であり、“純資産は、株主資本、評価・換算差額、新株予約権から構成される”ものとされました。』
『ちょっと専門的なので分からなくても気にする必要はないです』
株主資本等変動計算書に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】小
『法律が改正された影響で自己株式の“取得”や“処分”や“消却”など純資産の変動要因が増加しています。そこで、透明性を確保するために株主の持分の変動に関する開示の拡充がなされました。』
事業分離等に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】大
『“会社を分割”したり“事業を譲渡”する場合など、事業を分離する企業(分離元企業)の会計処理が定められています。さらに、“合併”や“株式交換”などの企業結合の際の、当事者となる企業の“株主”がどのような会計処理をするのかも定められています。』
ストック・オプション等に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】中
『例えば、会社が役員に対して無償で(=タダで)ストック・オプション(予め決められた一定の価格で会社の株式を購入できる権利)を付与した場合、それだけだとお金のやりとりなど一切なくて経済的には何も動きが無いようにみえます。しかし、経済的な実態としては“後払いの役員給与”のようなものと捉えられるので、通常の役員給与を費用として処理するのと同じような意味合いで、無償で付与されたストック・オプションの実質的な価値相当額を費用として計上する必要があります。』
棚卸資産の評価に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】大
『仕入れた値段よりも売却見込み額が下がってしまったり、そもそも売れない可能性が高くなった在庫は、資産としての価値をマイナスしてその分を費用として処理する必要があるよ。』
金融商品に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】大
『金融商品は、売掛金や貸付金などのように約定の回収を目的とするもの(インカムゲイン目的)と、有価証券などのように時価変動による利益を狙うもの(キャピタルゲイン目的)に分かれます。そして会計上は、その実態を適切に表現しないといけません。前者は、付随する利息があれば収益として認識するし、債権の回収見込みが低くなればその分を損失として計上する必要があります。後者は、有価証券などの金融商品を時価で評価することにより実態を適切に表現することができます。』
関連当事者の開示に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】小
『株主や役員、親会社や子会社との取引は、特別な便宜が図られたりして、結果として会社に不利益を生じさせる可能性があるよね。だから、そのような利害関係者との取引は、特別に詳細な情報開示をする必要があります。』
四半期財務諸表に関する会計基準
【難易度】低
【経営への影響】小
『上場会社は、決算期末だけではなく四半期ごとに情報開示を行う必要があります。ただし、決算期末の開示に比べて簡易な開示が認められており、その内容が定められています。』
収益認識に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】大
『これまで収益認識に関しては、企業会計原則において実現主義の原則が示されているのみで、包括的な会計基準はなかったよね。だけど、国際的な動向を受けて、収益認識に関する包括的な会計基準が公表されたよ(平成33年4月1日以降開始事業年度から適用開始予定)。
提案されている基本原則は、次の5ステップに従った収益認識。
すなわち、[1]顧客との契約の識別、[2]契約における履行義務の識別、[3]取引価格の算定、[4]取引価格の履行義務への配分、[5]履行義務充足時の収益の認識、という包括的フレームワークに従って収益を認識するというものだよ。』
リース取引に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】大
『『リース』とよばれる取引は、“モノの貸し借り”という側面以外に、“お金の貸し借り”という側面もあります。取引の実態としてお金の貸し借りという側面がメインの場合、会計上は、“借り入れをしてそのお金で資産を購入した”と考えます。つまり、資産(リース資産)と借入金(リース債務)を計上し、リース料支払時には利息にあたる部分を支払利息として表現してあげる必要があります。
お金の貸し借りという側面がメインのリース取引をファイナンス・リース取引、それ以外のリース取引をオペレーティング・リース取引といいます。』
『『リース』に限らず、取引の実態、取引の意味合いをしっかりと捉えることが第一歩です。なお、こちらの記事『固定費の削減方法/リース料・人件費・経費を理解しよう』も参考にしてください。』
工事契約に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】大
『東芝の不正経理問題で注目されたよ。
一定の要件を満たした工事については、工事の進捗に応じて利益を計上する「工事進行基準」を適用し、要件を満たさない工事については工事が完成した時点で利益を計上する「工事完成基準」を適用するものです。』
持分法に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】中
『「持分法」とは、投資を受入れた会社(被投資会社)が獲得した利益のうち、投資を行った会社(投資会社)に帰属する部分を、投資を行った会社(投資会社)の帳簿上の投資金額(有価証券の簿価)に加えたり減らしたりすることにより評価する方法です。』
セグメント情報等の開示に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】小
『経営者が業績評価などの意思決定を行うための一定の単位を“セグメント”として区分し、その“セグメント”ごとに各種の利益などを開示する必要があります。』
資産除去債務に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】中
『建物や機械装置などの“固定資産”を長年使用した後、それを撤去する際に何かしらの追加費用が発生する場合があるよね。例えば、原状回復工事や土壌汚染の回復など。その将来的に発生するであろう負担金額を見積り、負債として計上しておく必要があるよ。』
賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】中
『賃貸などの投資目的で保有している土地や建物などの不動産に関しては、期末時点における時価やその他付随する情報を、注記として開示する必要があります。』
企業結合に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】大
『ある会社を“吸収合併”した場合や“一部の事業を譲り受けた”場合の会計処理方法が定められています。最近だと、“オリンパスの不正会計事件”の影響で(※)、合併や事業譲受の際の“取得関連費用”は即時に費用処理を行うものと改正されました。※筆者の推測を含んでいます。』
連結財務諸表に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】大
『経営を支配している子会社がある場合、親と子の決算書を合算し、その上で親と子の間の取引を相殺消去することにより、“連結財務諸表”というものを作成する必要があります。そうやって企業グループ全体としての決算書を作ることで、親会社の損失を子会社に負担させる、いわゆる「とばし」と呼ばれるような行為はできなくなり、企業グループ全体としての状況が把握しやすくなって、その結果投資家の保護に役立ちます。』
会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
【難易度】中
【経営への影響】中
『会計方針(ex.たな卸資産は先入先出法で評価する)を変更する場合や、過去の会計処理の誤りを訂正する場合は、“原則として”過去に遡って修正すること、及び、会計上の見積り(ex.債権の貸し倒れの予測)を変更する場合は、過去に遡って修正することはせずその時点以降の処理を修正すること、が定められています。』
包括利益の表示に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】小
『会社の“純資産”が増加する要因は、損益計算書に計上されている“利益”の獲得以外にもあります。例えば、その他有価証券評価差額金の計上や繰延ヘッジ損益の計上などですが(※このあたりはとても専門的で難しいです)、それを表示する必要があります。』
『『包括利益』の概念は専門的で難しいので、「ふ~ん・・・」くらいに思っていただければいいです。』
退職給付に関する会計基準
【難易度】高
【経営への影響】大
『退職金は従業員が退職した時に支払われますが、その根拠、つまり“長年の勤務”という行為は日々なされています。なので、その勤務という行為に応じて費用と将来的な退職金の支払義務という債務を、徐々に徐々に認識していく必要があります。ちなみに、企業年金についても同様の考え方で認識をしていく必要があります。』
会計基準という位置づけとはちょっと違うけど大切な文書
企業会計原則
『会計基準ではありませんが、実務慣行の中から一般に公正妥当と認められたところを要約したものだよ。規範としての位置づけ。法律に対する憲法みたいなイメージかな。』
原価計算基準
『原価計算というのは、製造業などで「材料費」・「労務費」・「経費」を集約して製品の原価を集計するプロセスのこと。原価計算基準も企業会計原則と同様で、実務慣行の中から一般に公正妥当と認められたところを要約したもので、実践規範として位置づけられているものだよ。』
まとめ
会計とは、『取引の実態』を表現するものです。
会計のテクニカルな部分に惑わされずに、経済行為の本質、会計基準の本質を捉えることを心がけましょう。